管理人:下村は何となくジャマイカに特別な思い入れがあります。ジャマイカ人のJJを個人的にオンライン英会話の先生として雇っているので、彼から色々お国について教えてもらえる事もありますし、JJの他にも何人かのジャマイカ人の先生に大変親切にしてもらってきました。
現在利用しているオンライン英会話スクールにもおひとり、近頃頻繁にお世話になっているジャマイカ人の先生がいます。ニックネームはここでは「レイくん」としましょう。明るくて楽しい典型的なカリビアンですが、たまに指導が雑な時があります(笑)。
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先日レイくんに、こちらの漫画のセリフを英訳したのをチェックしてもらいました。
「2個セットで売ってるから、違う色1足ずつは買えないよ」という日本語なのですが、
下村の訳:
These slippers are sold in pairs. You can’t buy one of these pairs.
後半部分がちょっと意味分かりにくいかも。
These slippers are sold in pairs in color. You can’t buy a foot of the pairs.
こんな感じでどや?
おおぅ? “a foot?” ……靴1足の事を a foot って言うって事?
色々分からなくて追加でアレコレ尋ねてみたけど、何だか適当に流されました(汗)。おそらくレイくんは、分かりやすく説明する事が苦手なんでしょうね……。
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スッキリしないのでガンちゃんに、同じ漫画をレイくんの訂正してくれた英文も合わせて共有し、
ジャマイカの先生にな、英文添削してもらってんけどな、まだよく分からへんの。
下村の文:These slippers are sold in pairs. You can’t buy one of these pairs.
レイくんの文:These slippers are sold in pairs in color. You can’t buy a foot of the pairs.
a foot of the pairs?? こんな言い方するかなぁ? 何を言いたいかは分かるけど、もっとシンプルに言えると思うで。
2足で1セットやから、1足だけは買われへんって事やろ。1文目はそのままで良いから、2文目を変えるとして……
You can’t just buy a single slipper とか、You can’t buy one of each とかどう?
レイくんの直してくれた文はあっさり却下……
どこ出身やって? その講師。
ん? ジャマイカ。
あージャマイカか。カリブ諸国の英語は、文法とか若干おかしかったりすんねん。
あの辺は、歴史的に奴隷制度が大きく関わってくるやろ。イギリス人たちが、アフリカから奴隷として黒人たちをカリブ海に連れて行ったやん。
でっ、その奴隷たちが、主人が自分たちが話すのを理解できひんように、意図して文法の規則を破って喋るようになったことに起因してるらしい。
その故意に間違えた英語が未だにあの辺では使われてたりするから……。第一言語が英語という意味ではネイティブスピーカーではあるけど、カリブ海地域の英語にはそういう事情もあるからな。
ほ、ほほう……
え~っとこれは、ジャマイカ(だけじゃないけど)の英語はあんま当てにするな、って言われたのかな??
その、かつてアフリカからカリブ海に連れてこられたアフリカ人奴隷が、支配層に分からないように敢えて言語を改変して話すようになった結果、それが定着したっていうのはすごく興味深い話ではありますが。
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翌日ちょうどJJとのレッスンがあったので、カリビアンである彼にもぜひ話を聞きたいと思いまして、
あんな、もしかしたらあんまし気分のいい話題ではないかもしれんねんけど、いい?
全然大丈夫やで
前日ガンちゃんから聞いた話をメモっといたので、それを読みながら
その……奴隷同士で会話してるのを、イギリス人の主人に理解されへんように、わざと間違った英語で喋るようになったっていうの。それってホンマ?
“間違った英語”だなんて、明らかに失礼やなって話しながら思いつつ……他のカリブ諸国出身の先生には聞きづらい質問かも。でも、JJとは長い付き合いなので大丈夫。
えっと、実際にはもっと複雑で、そんな単純な話ではないんやけど。
まず、奴隷たちはアフリカの色んな所から集めて来られたから、皆それぞれ違う部族やし母語も違ったんやな。つまり、奴隷同士も自分たちの言葉では互いにコミュニケーションは不可能やってん。
特にそれは奴隷を連れてきたイギリス人が意図的にそうしたんやけど……同じ地域出身の奴隷は敢えて引き離して別々のプランテーションに送ったりして、意思疎通できひんようにしたわけ。言葉が通じひんから、奴隷たちも容易に団結して反抗するのが難しくなってん。
ふ~む、なるほどな。
だから、そもそもカリブ諸国の言語っていうのは、必要があったから生まれた言葉やねん。奴隷間でも共通の言語が無いとコミュニケーションできひんし、一方でイギリス人の雇い主は英語で話すから、英語も自然と身に付いていくやん。
そういう環境の中で、英語とアフリカの部族語ージャマイカの言語に限って言うと主にアカン語やけどーそれがミックスされた言葉が形成されていったって感じ。
長い歴史の中で、イギリス人の支配階級に抵抗するために故意に文法を間違えて使ったというケースもあったかもしれないけれども、取り立てて問題にするほど大した話ではない、というのがJJの意見です。
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余談ですが、違う言語を話す人たちが意思疎通のために作り出した言葉を「ピジン語」と言い、それが後に新たな言語として確立したものは「クレオール語」と言うんだそうですよ。
カリブ諸国においては、過去の奴隷制の時代に使われていた、英語とアフリカの諸言語が合わさったピジン語が、それぞれの国のクレオール語として発展したという事になります。
でもな、これは僕のちょっとした愚痴なんやけど……。
「ジャマイカ人の話す英語はブロークンや」っていう考えが、ジャマイカ人の間でさえも結構多いねん。これは植民地支配の影響が尾を引いてるからなんやけど、支配者層の使う言語の方が優れてて、被支配者層である自分たちの使う言語のほうが価値が低いっていう、そういう価値観がいまだに根強かったりするねん。
へえ……何かそれ、全く同じ話をスリランカの先生たちから聞いたことあるな。
スリランカの先生方の母語はシンハラ語でしたが、普段シンハラ語で文字を打つ事ないからパソコンのキーボードも英語に設定されてるって言ってて……。
シンハラ語の文字って丸っこくて超可愛いんですよ。英語に重きを置きすぎて自国の言葉が蔑ろにされてしまってるなんて、何だかすごくもったいない気がしたものですが。
まっ、それはさておきJJの愚痴に戻りますと、
僕に言わせると、ジャマイカで使われてるクレオールは、英語とは完全に別の言語やから。
文法とか語彙に英語と被るところが多いから、一見英語で喋ってるように聞こえるのはしゃーないんやけど。
ちょっとややこしいけど、ジャマイカの人たちの母語は別名「パトワ」と呼ばれたりもする「クレオール語」であり、ジャマイカで話されてる英語は「ジャマイカ英語」で、この2つは混同されがちであるけど、それぞれ別々の言語だって事なんですね。
僕らが普段使ってるのはパトワで、別に英語で喋ってるわけちゃうねん。それやのに「ジャマイカ人は間違った英語で喋ってる」って言われる(笑)。
分からないなりに想像してみるに、例えば大阪人が地元で関西弁を話しているのを、関西弁を知らん人が聞いて
あの人日本語間違ってる。
っていちゃもん付ける感じ?
そりゃ、気分良くないよね💦 間違ってるのはアナタの認識で、私が喋ってる関西弁は何も間違ってません! って反論したくなるやろーなー……。
しかも厳密に言うと関西弁は「方言」であって「言語」と定義されるものではないけど、ジャマイカのクレオールは明確に確立した「言語」ですからね。
僕らは僕らの言葉を正しく話してるでっ!って言いたい(笑)
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またひとつジャマイカについて新しい知識が増えて、ワタクシ素直に嬉しいです。
ただ「ガンちゃんが言ってたんやけど」って前置きした上で「奴隷制に端を発して、ジャマイカの英語は文法的におかしい事があるって聞いた」と話した事で、JJのガンちゃんに対する心証が悪くなったかもしれず、それはガンちゃんにもJJにも申し訳なかったなぁと思います。
まっ、2人が直接会ったり話したりする機会はまずないと思うので、特に実害はないと思うけど……。